生成AIでシステムを作るようになってから、よく言われます。
「それ、AIがやってるんでしょう。だったら誰でもできますよね」
半分は正しくて、半分は間違っています。
道具は誰にでも開かれています。同じAIに、同じ日本語で、誰でも話しかけられる。
それでも、出てくるものは同じにならない。理由をきちんと書いておきます。
1.生成AIでシステムを作り始めて1年2ヶ月
2025年5月からです。趣味の実験ではなく、実際にお客様が使う本番システムを作り続けてきました。動かないものは動かないまま終わる、その現実に毎日さらされてきた1年2ヶ月です。
2.ほぼ毎日、10時間触っている
単純計算で4,000時間前後になります。生成AIは「使ったことがある」と「毎日10時間つきあっている」の間に、想像以上の距離があります。どこで嘘をつくか、どこで手を抜くか、どう指示すれば意図どおり動くか。これは読んで覚えるものではなく、殴られて覚えるものです。
そして今は、ターミナルを3つ並べての同時開発が当たり前になりました。
1つに任せて待っている時間がもったいないからです。1つ目に大きな改修を走らせ、2つ目で別のサイトの修正、3つ目で調査や検証。頭の中で3本の作業を並行して持ち続けることになります。
最初からこうできたわけではありません。1つでも手一杯だった時期があり、AIの出力を全部読んでいた時期があり、どこを見れば良し悪しが判るかが分かってから、ようやく3つになりました。触っている時間の長さは、こういう形で表に出てきます。

朝9時23分の作業机。左から順に別々の案件が走っている。待ち時間を作らないための3画面。
3.このブログに15年間、毎日書いてきたデジタルジュエリー®のノウハウ
ここが一番大きいかもしれません。
生成AIに何かを作らせるとき、結局は「自分が何を知っているか」しか渡せません。指示の中身は、その人が持っている知識の写しです。
私は15年間、ほぼ毎日このブログにデジタルジュエリー®の考え方と現場のノウハウを書いてきました。言葉になっていない経験は、AIには渡せません。私は15年かけて、自分の経験を言葉にする作業を先に済ませていたことになります。
4.30年続けている3D-CADと3Dプリンターでのジュエリー製作
1996年にCADを導入してから30年です。
生成AIが出してくるものは、見た目は立派でも「作れない」ことが頻繁にあります。爪が薄すぎる、鋳造で湯が回らない、石が留まらない、磨けない。
その判定が一瞬でできるかどうか。これが決定的です。AIの出力を採用する判断より、捨てる判断のほうが難しく、そこには製造の実績しか効きません。
5.30年分の3Dデータを持っている
ここは具体的に書きます。
たとえば、結婚指輪のデザインデータが365個あるとします。
今からこれを揃えようと思ったら、どうなるか。
1日に5個作れる人でも、365÷5で73日。2ヶ月ちょっとです。
数字だけ見れば大したことがないように見えます。
実際にはまず無理です。毎日5個のデザインを、他の仕事をしながら73日間続ける。3日で止まります。1週間続いた人でも、10日目には同じような形しか出てこなくなります。
私の365個は、そうやって集めたものではありません。
1年間、毎日1個ずつ発表する。それだけを守り続けた結果、365個になっていました。集めようとして集めたのではなく、365日が過ぎたあとに、振り返ったら積み上がっていたものです。
データは「作る」ものではなく「積む」ものだと思っています。
そして今、それがそのまま生成AIの素材になっています。検証にも、実装にも、判断の基準にも使える。1年前の自分に感謝することはありませんが、10年前の自分には少し感謝しています。
真似できるもの、できないもの
1と2は、今日から始めれば1年2ヶ月後には誰でも持てます。追いつける部分です。
ただし、ターミナル3つを同時に回せるようになるまでには、その1年2ヶ月がまるごと必要でした。近道はありませんでした。
3と4と5は、そもそも追いつけません。365個を73日で作る計算は成り立ちますが、成り立つのは計算の中だけです。1年と15年と30年は、努力の量ではなく、経過した時間そのものだからです。
生成AIは、持っているものを増幅する装置だと思っています。
何かを掛け算すれば大きくなる。ただし、ゼロに何を掛けてもゼロのままです。
「AIを使えば誰でもできる」という言葉が抜け落としているのは、掛けられる側の中身です。
その結果として、ひとつご報告があります。
【ご報告】山梨県「やまなしイノベーション創出事業費補助金(研究開発)」に採択されました

株式会社デジタルジュエリーの研究開発が同補助金に採択され、7月21日付で交付決定を受けました。
研究開発テーマ
「ジュエリー製造のための生成AIアルゴリズム研究開発 — FY2025実証ロボットと連携する爪生成AI —」
彫留めに必要な石座・爪を自動生成し、製造可能な3Dデータおよび制御用座標を出力する生成AIアルゴリズムの研究開発に取り組みます。昨年度に実証したロボットと連携させることで、デザインから製造までを一気通貫でつなぐものづくりをさらに前進させます。
2024年に東京から山梨へ移転して以来、実証・研究開発の両面で機会をいただいていることに感謝し、ジュエリー産業の未来につながる成果でお返しします。
この研究開発テーマは、生成AIだけでも、CADだけでも、30年の製造経験だけでも書けませんでした。爪の生成という一点に、AIとCADと鋳造と石留めの知識が全部必要になるからです。
掛け算が効いた結果だと受け止めています。
明日もまた、ターミナルを3つ開きます。








